手に入るものと
手に入らないもの
 
その区別が出来るようになった頃、
 
まだ欲しいと思えるものはなかった。
 
何もかも満たされていると感じていた。
 
 
 
 
けれど
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ParaNormal
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
独特の匂いが服に馴染むのを邪険に思いながら
ガブリとハンバーガーにかじりついた。
シャキシャキと噛む音が歯を伝わって耳に届く。
自分の目の前に座った同級生の山崎が
うわあ、と小さく鳴いた。
 
「めちゃくちゃ頬張りますね」
「おう」
 
噛んだものを喉に通して、ジュースのストローを啜る。
ハンバーガーとジュースが混ざり合って味はよく分からない。
時間に迫られている訳ではないが、部活後はいかんせん腹が減る。
となるとこういう風にがっついてしまうのはもう習慣だ。
 
最後の一口を大きく開いた口に放り込んで平らげた。
トレーの上には紙屑と店の名が大きくプリントされた紙コップだけになる。
 
きゅっと袖で口許を拭い、山崎を見やった。
まだ彼はとろとろと食事をしている。
そんな姿を見つめながらストローを噛んだ。
 
ストローの形が原形を保たなくなったころ、
妙な沈黙を破ったのは軽いトーンの重い声。
 
「山崎、聞いて驚くな」
 
「はい?」
 
食べ物に視線を落としていた山崎が顔を上げる。
濃い茶色の瞳が不思議そうに揺れた。  
 
 
 
 
 
「俺には前世の記憶があるんでィ」
 
 
 
 
 
止まる口の動き。
 
「・・・信じるか?」
 
半開きで、ぽかんとしている。
 
そういう表情になるのは仕方がないが
口内から覗く食べ物がなんだか汚い。
目でそう伝えると、山崎は頬に赤みを差してコホンと小さく咳ばらいした。
 
 
 
「えーと・・・否定する気はないです」
 
真剣な顔でじっと自分を見つめてくる。
からかいはしない、そんな馬鹿な奴ではないことを昔からよく知っている。
だから話そうと思った。
並の人間なら突っぱねて聞こうともしないような話を。
 
「沖田さんがいいなら、聞かせてほしいとも思います」
 
そう言って優しく笑う瞳に嘘はない。
きゅっと唇を引き締めて、ゆっくりと口を開いた。
 
 
「俺は」
 
 
 
 
 
言って、
 
 
 
 
止まった。
 
 
 
ガラスの窓に目を奪われ、止まった。
 
否、正確にいうとガラスの窓ではなく
その先に居る、一人の人物に。
 
琥珀色の大きな瞳が零れそうなくらいに見開かれる。
 
 
信号を持ちながら、火のついた煙草をくわえている彼の姿。
 
 
忘れはしない。
遠い記憶。
 
 
あの人は確かに
 
 
 
「土方・・・さん・・・?」
 
 
 
はっとして席を立つ。
椅子と机がガシャンと悲鳴をあげた。
 
当然かもしれないが、山崎が驚いたような顔をしている。
それを視界の端に、店の出口へ向かった。
そこから信号のあるところまで、少し距離がある。
 
走らなければ
 
もうすぐ、信号が変わる。
 
 
「・・・っ」
 
呼び止めようと発した声は
喉に突っ掛かってうまく言葉にならない。
 
 
信号が赤から青へと変わった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
言葉が、でなかった。
 
 
歩きだそうとしている彼を目の前にして
身体が機能を果たそうとしない。
 
 
触れてはいけない、とでもいうように。
 
 
息が上がり、膝に手をついた。
 
周りは動く、その中で
自分だけが、止まっていた。
 
 
こんなに近くにいるはずなのに
 
 
 
手を、伸ばせない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「っ・・・沖田さん・・・?」
 
追っかけてきた山崎が心配そうに眉を寄せている。
大丈夫だと片手を振って、信号の先を見つめた。
 
もうそこに、彼の姿はない。
 
「どうしたってんでィ・・・」
 
 
黒い地面にチッと毒を吐く。
青い空が嫌みに思えて、足早にまた店へと戻った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
前世の記憶がある。
 
たしかにある。
 
 
山崎と別れ、一人自室で今日の出来事だけを考えていた。
 
 
そこまで明確にハッキリと覚えているわけでもなくて
 
ただ断片的に、ハズルのピースのような
一つ一つの個々の思い出が頭に刻まれており
 
記憶を支配している。
 
 
大好きな人たちに囲まれて
幸せに育った前世の自分。
 
恵まれた才能と容姿を持ち
若くして組の隊長職を担いでいた。
 
 
そして
 
今日出会ったあの人は
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あの人は
 
 
―誰だ?
 
 
 
 
 
 
自分はあの時、名を呼んだ。
 
現世では知りもしない名を呼んだ。
 
 
今はもう、呼んだ名さえ思い出せない。
 
 
 
 
 
もどかしくて、悔しくて、
クッと唇をかみ締めた。
 
ぷつ、と空気が切れたような音がして
じわじわと口内に鉄の味が広がってきたが、もう気にならない。
 
 
 
膝を抱えて疼くまり、
必死に記憶の全てを辿った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
厨二病とかじゃないです正常です...正常だってばだからムチで叩かないでおねがいああん気持ちいい。
 
続きますかな?
すみませんなんか...
ちょっとがんばるむん。
 
 
 
 
 
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